5月勉強会「Web動画研修」

歯科治療時の全身的偶発症〜その時、慌てずに対応するために〜

講師:小鹿 恭太郎先生

我々、歯科医師が日々の臨床において時折、遭遇する事象として、全身的な偶発症があります。患者様が抱える全身疾患や歯科治療を受けるうえでの様々なストレスが相まって、時に血圧の急激な上昇、過換気、迷走神経反射、アナフィラキシーショックといったことが見られます。この時、私達がいかに適切な判断と対処を行えるかは、当然重要なことですが、偶発症を起こさないようにいかなる予防策を講じることができるのかが大切です。今回の勉強会では、私達研修医の入職ということもあり、あらためて有事の際の対応に備えて講習を行いました。
歯科治療において、こうした偶発症が最も起きやすいシチュエーションとして、局所麻酔があります。患者様が急変した場合、何よりまずは患者様に何が起きたかを把握するためにも、生体モニターを装着してバイタルサインを確認することから始まります。同時に患者様の顔色や意識などを把握し、診断と対処を決定し、迅速に対応していきます。
血管迷走神経反射は副交感神経が緊張状態になり、血圧・脈の低下が見られ自覚症状としては悪寒、気分不快などを生じます。対応としては、仰臥位で下肢を挙上し脳の虚血状態を来さないようにするが大切です。また徐脈の場合はアトロピンの投与も行う場合もあります。
過換気症候群になると呼吸困難、しびれ、テタニー様けいれん、めまい、動悸などが起こります。基本的に自然回復するので落ち着かせることが大事ですが、それでも回復しない場合は鎮静なども行います。
予防としては不安の軽減、静脈内鎮静などがあります。
異常高血圧を認めた場合、局所麻酔薬は中止、血圧が正常値付近に下降するまで十分に観察することが大切です。対応としては不安、緊張、降圧薬、疼痛、長時間の治療、尿意の除去をすることです。
アナフィラキシーショックは特に起こしやすい医薬品として抗菌薬、NSAIDsがあります。
症状としては紅潮、蕁麻疹、眼瞼浮腫があります。対応としてはアドレナリン筋注をし、仰臥位で下肢挙上をすることです。予防としては問診の際にしっかりと薬物アレルギーがないか聴取することです。
おそらく誰もが避けることのできない事情でありますので、色々な対応や予防を理解し、患者様の異変にしっかり気付いて対応することが大切だと学びました。


著しい臼歯部の挺出を認める患者に対し残根上全部床義歯を作製した症例

講師:松岸 諒先生

残存歯に著しく挺出を認める場合、口腔内の環境はもちろん、咬合を回復させることは非常に難しくなることが多くなります。ある症例を例に、どのようにアプローチしていくかを学びました。
患者様は今まで色々な歯科医院に通い、義歯作製を繰り返したものの、満足いく結果が得られなかったという経緯をもたれていて、いっそのこと残存歯をすべて抜去し全部床義歯にしたいという主訴で来院されていました。しかしながら、やはり残存歯を抜去せず保存し、その時に活かすこと患者様に説得し、治療用義歯を使って試行錯誤を繰り返した結果、患者様にとって初めて納得のいく義歯に辿り着くことができていました。歯冠補綴のできない歯は抜歯して義歯を作るという一般論が、臨床において全てとは限らないことを思い知らされました。患者様の訴えを聞き、その理由を理解した上で、二人三脚で色々な解決策を模索し提案し、患者様にとって満足のいく結果を目指せるような関係性を築けるような歯科医師を目指したいと思いました。

研修歯科医師 朱・古堅