3月勉強会「睡眠時ブラキシズム最前線 −基礎から臨床までの完全解説−(後編)」

タイトル:睡眠時ブラキシズム最前線 −基礎から臨床までの完全解説−(後編)
講師:馬場 一美先生

前月に引き続き、睡眠時ブラキシズムについて、実際の症例を交えて、より臨床的な内容を学びました。 睡眠時ブラキシズムは、時に歯を一撃でダメにしてしまう、つまり歯根破折という状態に至らしめることもある恐ろしいものであるという話が前編ではありました。後編では、スプリント使用が絶対的に必要であるということに加えて、歯の修復・補綴における材料選択と全顎的な咬合力のコントロールが非常に重要となってくるという話がありました。

従来、大きく歯質を失った場合、金属による支台築造を経て、歯冠補綴がなされてきました。しかし、過度な力がかかった場合、歯根内部に差し込まれた金属の築造体は、歯質より硬いために折れることなく、歯根がこの力に負け、歯根破折をきたしてきました。現在は、歯質に近似するマテリアルを用いてこれを行うことで、可能な限りこうしたケースを回避することが可能となっています。

私自身、来院される患者様には天然歯ですら歯根破折をきたすこともあるというエピソードを織り交ぜて、睡眠時ブラキシズムの恐ろしさをご説明していますが、やはり不利益を経験したことのない患者様が相手となると、なかなか思うように警鐘を鳴らすことができていないと感じることもあります。それでも、様々な臨床症例を経験していきつつ、より多くの患者様に睡眠時ブラキシズムの危険性を理解してもらい、自身の歯を長く保てるように繋げていければと考えています。

咬合力のコントロールについては、適切に咬合付与を行い調整されたスプリントを装着することで可能となります。作製するスプリントは、ハードタイプかつ上顎への装着を強調されていました。どうしてもソフトタイプを使用せざるを得ない場合、嵌合部にのみ即時重合レジンを盛って咬合関係を付与し、ガイドの調節を行うことで装置を作製することは可能とのことでした。

また、歯が欠損し義歯を使用されている方においては、まず義歯装着時・義歯非装着時の残存歯の接触状態をしっかり確認しておくことが大切とのことでした。一般的に、口腔衛生の観点からも、夜間就寝時には義歯を外す、とされている方が多くいらっしゃいます。しかし、睡眠時ブラキシズムを呈する方においては、歯の欠損の仕方次第では、夜間の義歯装着がないことで、残存歯や欠損部の顎堤粘膜を傷めてしまうケースもあります。欠損のかたちによってアプローチの仕方は様々ですが、義歯+スプリント装着という場合や咬合挙上を付与した「夜間用義歯」を作製することを推奨されておられました。私自身、夜間用義歯というフレーズが初耳でしたので、少し理解を深めていってみたいと思いました。

「予防歯科」という考え方が次第に広まってきているように思われます。日々のブラッシングや定期的な歯科受診を継続することは歯を健康に保つ上では重要です。そして、健康寿命の延伸にも必ず寄与すると思います。そこに、睡眠時ブラキシズムというものが潜んでいないか、私たちがしっかり見抜き、対策を提案していけるようにする、ということを院内で徹底していければと思います。

歯科医師 林 裕之