2月勉強会「睡眠時ブラキシズム最前線 −基礎から臨床までの完全解説−(前編)」
タイトル:睡眠時ブラキシズム最前線 −基礎から臨床までの完全解説−(前編)
講師:馬場 一美先生
人は就寝中に歯を食いしばる、いわゆる「歯ぎしり」を起こすことがあります。専門的には「ブラキシズム」と呼びます。もちろん、寝ている間の出来事ですから、本人にはその自覚がほとんどありませんが、歯科受診をされると歯の形状や顎の関節を動かした際の動きや音からその有無は判断できます。
今回は「睡眠時ブラキシズム」に関する動画研修を行いました。
臨床において、睡眠時ブラキシズムによる症状を訴えて来院される方は非常に多くおられ、その年齢層も多岐にわたります。訴えとしては、歯が欠けた・歯がしみる・奥歯で噛み締めると痛みがある・口の開け閉めをするときに音が鳴る/痛みがある・起床時の顎や顔の筋肉にだるさがある、などと様々ですが、多くの方が睡眠時ブラキシズムから来るものという自覚を持っておられません。
睡眠時ブラキシズムの原因については未だにはっきりわかっておらず、ストレスや睡眠の質の低下など多因子によるものだと分析がなされています。
私達、歯科医師が患者様の口腔内を診察した際に、
- 歯の異常な咬耗
- 起床時の咀嚼筋の痛みや不快感、疲労感
- 噛み締め時の咬筋の肥大
などの所見は特に睡眠時ブラキシズムを疑う大きなきっかけとなります。
人の歯がどんなに硬いものであっても、同じ硬さのもの同士を擦り合わせていれば、当然すり減ってしまいます。こうした歯のすり減り=咬耗について、睡眠時ブラキシズムが起こっていることによるものか否かの鑑別として、咬耗面の光沢の有無、側方位で上下対向歯咬耗面の一致・不一致を観察しておくことで信頼性が上がるという点は大変勉強になりました。また筋電図を記録することで、より正確な診断が行えるのですが、歯科医院にどこにでも設置しているものではないため、学んだ知識と経験の積み重ねをもって、診断をつけ、そのリスクと善後策を患者様にいかに説明し向き合っていただけるようにするかが大切です。しかしながら、患者様の多くは睡眠時ブラキシズムによる不利益を実感していないことが多いため、予防的に対策を講じることの重要性を伝えることが難しいと感じています。
睡眠時ブラキシズムにより生じる力は想像以上に大きく、これを軽んじると歯牙の破折や歯周病進行の増悪因子ともなり、顎口腔系の破壊につながります。こうした為害作用から顎口腔系を保護するための唯一と言える手段がスプリントです。ブラキシズムを抑制する方法はありませんので、事実上、ブラキシズムによる為害作用を抑えるには、力のコントロールが課題となり、スプリントは重要な役割を担っています。
- 歯ぎしりや食いしばり時に歯列全体にかかる力を均等になるような咬合接触関係を構築する。
- 歯牙同士の接触をなくすことで歯牙の形態的な損傷から保護すえる。
- 顎関節を咬合位に収めさせないことで、顎関節腔内圧力を分散させ関節を保護する。
といったことを目的として、いわゆる両側性平衡咬合を目指します。このとき、スプリントを上顎に対して装着しなければ確立できないということも分かりました。
有髄かつ処置既往のない天然歯においても、歯根破折をきたし抜歯を余儀なくされるといった事例もあるという話を聞くと、改めて睡眠時ブラキシズムがもたらす為害作用の怖さを認識しました。知らぬ間に体で起きていることがこれほどまでの影響を及ぼす、そのことを患者様にどう伝えられるか、歯科医師としての責任は非常に重いものだと感じます。いかにむし歯を治し、歯周病予防のメンテナンスで通院を継続していても、睡眠時ブラキシズムのコントロールを疎かにすることで、容易に歯を失い、健康な口腔環境・口腔機能を失ってしまうということを肝に銘じ、患者様の将来を考えたインフォームドコンセントを心がけていかなくてはいけないと感じました。
歯科医師 川元