10月勉強会「総義歯専門Dr.が語るベーシックテクニック」

<Web動画研修>
研修名:総義歯専門Dr.が語るベーシックテクニック
講師:松丸悠一先生

気温も幾分落ち着いてきて、涼しくなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか、歯科医師の西堀友啓です。

昨今、少しずつではありますが 歯科に対しても予防の意識が芽生えはじめている傾向が感じられますが、高齢化社会の中では義歯による治療を必要とする患者様がまだまだ多いのです。今回の勉強会は、義歯の中でも特に難しいと感じる総義歯を製作する上でより良いものをつくるために、どこに気を付けて印象採得(型取り)をすればよいかを学ばせて頂きました。総義歯の作製において難しいと考える理由は、残存歯に維持を求めることができない=義歯単体で口腔内での安定性を確保しなければならない、という点です。

そのため、義歯をできるだけ過不足ない大きさで作製できるように、口腔内の解剖学的な構造を印象採得の際にいかに再現できるかが重要となります。神経や血管の位置を理解し、それを避けることができないと当然、圧迫による疼痛発現につながります。上顎なら、床後縁の設定の目安となる口蓋小窩、義歯を維持する上で欠かせない上顎結節の被覆、鼻口蓋神経・血管開口部で圧迫してはならない切歯乳頭、開閉口運動による形状の変化が安定に影響を与える翼突下顎ヒダといった構造、また口唇や頬の運動により上唇小帯や頬小帯が動き、床縁設定位置が決定すること。こうした細かい一つ一つのことが患者様の口腔内の様子や動きの再現性を高め、より精密な情報を得ることができ、これに基づいて質の良い義歯の作製につなげることが可能となることが分かりました。可動粘膜と非可動粘膜の境界、バッカルスペースの大きさと小帯の有無をチェックすることも大切です。

下顎では、咬合圧の負担域として重要な頬棚、床後縁設定位置かつ安定のために被覆を必要とするレトロモラーパッド、義歯の維持安定に重要な顎舌骨筋線のチェック、また顎堤が高度に吸収し平坦化しているような症例においては、歯槽頂がどこなのかということもしっかりチェックが必要です。

適合の悪い義歯・噛み合わせの悪い義歯を市販の義歯安定剤を併用するなどして長い間にわたって使用していた場合に、局所的な刺激によって顎堤粘膜が炎症性増殖を起こしフラビ―ガムが形成されます。スライム状の歯肉の塊といった表現がわかりやすいかもしれませんが、この組織は柔らかいものであるため、力のかかり方次第で倒れるか倒れないか、倒れるならその方向はどちらか?といったことで義歯の適合に非常に大きく影響します。

総義歯の印象採得には個人トレーを用いることが多いと思います。これを用いて筋圧形成辺縁形成を行いますが、その際に使うコンパウンドの軟化のコツは、中央に芯を残すくらいそしてゆっくりトレーに巻き付けた後、口腔内へ挿入して形成します。コンパウンドに丸みがあって動きがあれば、辺縁形成が十分で、シャープで動きがなければ量的に不足しているという評価が出来るということでした。こうして個人トレーを使って改めて精密印象を行うので、最初の印象採得は個人トレーを作るためのものであってアバウトで大丈夫、かというと決してそういうことではありません。最初の印象採得で可能な限りの情報をとれていないと結果的に精度の低い個人トレーができてきますので、それを多少細工したのでは精密な印象採得の精度も落ちてしまいます。 総義歯にとって、維持力を損なわない外形がどういうものか注意して診査することの大切さ、支持力の確認、筋圧形成・辺縁形成をすることで質の高い印象を得られるということを再認識でき、非常に有意義な勉強会となりました。        

担当歯科医師 西堀